雪が降っていた。赤と緑の飾りが街に色づき始めた。初めて手にした,デジタルデバイスだった。
アップル社のiPodは,その高い値段から消費者の反応は鈍いかもと小売店はみている。問い合わせはたくさん来ているが,値段への不満の声もある。アップルのファンは買うだろうが,問題はデザインと機能の充実という強みをいかして,新規ユーザーを獲得できるかだ。
少女は,離婚した両親の母親の方からiPodをクリスマスプレゼントにもらった。ずっと前に父親からもらったiMacに,なにかデバイスをつないだのは初めてのことだった。…別に,そこに自分の身の上の想いを重ねるなんて感傷めいたことをする気はないけど,iPodでいつも音楽のある生活は,正直に云うとちょっとだけ感じていた寂しさを消してくれた。ハードウェアへの興味は全然なかったけど,iTunesがそのままポケットに収まるという感覚は,わかりやすくって好きだった。真ん中のボタンを押していると現れるブロック崩しのゲームも,今までゲームに触れたことがなかった少女には心地いいものだった。
街は,気の早いクリスマスのサンタや,ホリディシーズンのピエロであふれていた。そんななかでは,陽気な音楽をセットすればいいし,家に帰る途中の,真綿の広がる雪の草原では,『降誕節』が似合う季節だった。iPodの音楽に合わせて,手を重ねて,空を見上げる。「曠野の果てに 夕陽は落ちて,妙なる調べ 天より響く…」。グロリヤ・インエクセルシスデオ。
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